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リレー小説『群青の月』 第十二回 担当:長谷部

 彼は数子に勧められるまま、ビールを飲み干していった。数子は表面上は優しく世話好きな様子を見せながら彼の相手をし、その中で少しずつ、純子との関係を聞き出していった。彼は注がれたビールをハイペースで喉に流し込みながら、深夜の駐車場で純子と出会ったことや、この一週間純子に再会できるのが待ち遠しかったことなどを素直に純子に話していった。
 数子はあと一歩のところで、彼をうまく口車に乗せて、純子を貶める作戦に駆り立たせることができたであろう。だが、そうはならなかった。
 彼は、ハイペースでビールを体内に入れた結果、落ち着きと冷静を取り戻していった。彼にとってアルコールは、この場違いな居場所に自分を落ち着かせ、馴染ませる潤滑油となった。彼はコップにビールを注ぐ数子の顔を見た。数子は劇団の女優だけあって確かに美しかった。だが、それだけだった。数子には、純子のように彼の心を揺さぶる衝動的なものがなかった。純子のように、見る者に多くの意味を考えさせる瞳を持っていなかった。彼は数子に語りかけながら、冷静に数子を分析した。純子の演技を間近で見た彼は、やがて数子の「演技」に気がついた。
 なるほど、この数子という女性は純子に妬んでいて貶めたいと考えている。その作戦の道具として、勇気がなくて純子に花束も渡せず、そのまま帰ろうとした自分が選ばれたわけだ。彼は自嘲的な笑いをこらえた。
 このまま数子に激昂して席を立ち店を出てしまおうかと、彼はコップを強く握りしめた。だが、と彼は考え直した。ここで数子を非難し、立ち上がってしまえば、純子に会う機会はおそらく二度とないだろう。もしあったとしても、今日何もしなかった自分が純子と話せるとは到底思えない。それならば、ここで数子の謀略にわざと引っかかり、純子に接し「何事か」を成し遂げなければいけないのではないか。
 空になったコップを握りしめ突然黙りだした彼に、数子は気圧された。「ねぇ、どうしたの、いきなり?」とやや不安のこもった声で数子は彼に言った。彼は決意した。彼はゆっくりと数子の方を向き、「ちょっと、純子さんの所へ行って話をしてきます」と言い、数子の返事を待たずに、花束を抱えて立ち上がった。
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リレー小説『群青の月』 第十一回 担当:青柳

 彼はぼんやりと、駅までの道を歩いていた。
 美しい純子。舞台での彼女は、本当に輝いていた。その光があまりにも眩くて、眩暈を起こしそうだった。星のように、遠い存在。手が届くことは、きっとない。
 彼はまたひとつ、ため息をつく。これまでに何度ため息をついたのだろう。少し向こうが優しく接してくれたからといっても、自分も観客の一人に過ぎない。客席から彼女を見つめていて強く実感した。あの青年を演じていた男性――目鼻立ちがはっきりとしていて、自信に満ち溢れた雰囲気を漂わせている、同性の自分から見ても「いい男」だった――彼のような男こそが彼女の隣に立つべきなのである。
 ほんの一瞬でも夢を見ることができたのだから、これで良かったのだ。自分のような男は、女性との関わりに淡い期待を抱いてはいけない。勝手に自己嫌悪の海に沈んでいくところで、ぽんと軽く肩を叩かれて、振り向いた。
「あなた、このままで良いの?」
 彼に追いついた数子である。にんまりと笑い、彼の目をじっと見つめる。彼は突然声をかけられ驚いたのだろう、数子を見るとすぐに目を泳がせていた。
「え、あなたは」
ああ、これはちょろい。数子は何だか面白くなってきてさらに口角をつり上げる。
「私、純子さんと同じ劇団に所属しているの。さっきあなたが純子さんにお花、渡そうとしているところも見ていたのよ。折角なんだし、彼女とお話ししていかない?この後近くの居酒屋で打ち上げがあるから、おいでなさいよ」
 数子はよどみなく彼を誘う文句を言い連ね、彼の手をぎゅっと握る。
そうこうしているうちに、彼は焼き鳥の煙がたちこめる居酒屋の座敷席に座り込んでいた。純子は対角線上、一番遠いところに座ってビールを飲んでいる。彼は隣に座る数子に「さあさあ、まずは一杯どうぞ」とビールを注がれたので、場違いだとは思いながらもとりあえず喉を潤すことにした。

リレー小説『群青の月』 第十回 担当:黒石

 純子と同じ劇団の女優である数子は、若い男が花束をソファに置いて出て行くまでの一部始終をずっと眺めていた。今日の劇では数子の出番はなく、彼女は同じ劇団員として応援に駆け付けたわけだが、花束抱えてロビーをうろうろ歩きまわっている男があまりにも暗い顔をしていたので、目にとまったのだ。注意して男を見てみると、彼の挙動はおかしかった。彼は純子を眺めてはため息をつき、手に持った花束を何度も握り直していた。意を決して純子に近づこうとしたかと思うと、すぐに立ち止まり今度は前髪をいじりはじめるのだった。最後にソファに花束を置いて、今にも死にそうな顔をして去って行く男を見ると、「なんてわかりやすいんだ」と数子は胸のうちでつぶやいた。そして「これは使える」とほくそ笑んだ。
 『群青の月』公演初日は大成功のうちに幕を閉じた。数子にはそれが気に入らない。今大勢の観客達に囲まれて喝采を浴びている純子。もともとあのポジションは数子のものであったはずだ。数子は純子の先輩にあたり、かれこれ5年以上この劇団に所属している。純子が入った三年前には、数子の演技は全盛期を迎えており、みなにちやほやされることの心地よさを一人占めにしていた。それなのに、純子が入ってきてからというもの、数子の演技には花が無くなっていく。そして今回の『群青の月』ではついに主役まで奪われてしまった。
 「純子のせいだ。純子さえいなくなれば......。あの男、どういう経緯で純子を知ったのかはわからないが、純子に惚れているのは間違いない。あの男をうまく利用すれば、純子を気落として私がもう一度主役に返り咲くことができるかもしれない。」
 頭の中でそこまで考えると、数子はソファから男が置いていった花束を拾い上げ、急いで男の後を追った。

リレー小説『群青の月』 第九回 担当:長谷部

 舞台の上の純子は、この前の夜と同じ白いワンピースに裸足で、涙を流しながら座っていた。一週間ぶりに見た純子は、記憶の中の純子よりもはるかに美しかった。彼の意識は一目で純子にとらわれてしまい、筋を読むのに気がつくまで数分ほどかかった。
 物語は古風な感じのする「悲恋もの」だった。精神を病み地方の祖父母の家で生活している少女が、都会からやってきた青年と出会い、恋に落ちる。青年は都会での生活を捨てて、地方で少女と一緒になろうと決意するが、家族から反対され、また都会での将来ある生活をあきらめきれず、少女を捨てて都会に帰ってしまう。青年が去り、さらに精神を悪化させた少女は、夜中、家を抜け出て、崖から落ちてしまう…………
 この舞台の特色は、後半部分がすべて、純子演じる少女の一人舞台だったところだ。青年から見捨てられ、重度に精神を病んだ少女が目にする独特な景色とモノローグが、舞台の上で展開されていた。純子は迫真の演技で、少女が持つ外見の「冷たさ」と内面の「激情」を表現していた。彼だけでなく観客全員が純子に見入っていた。
 幕が閉じ、盛大な拍手が会場に響いた。再び幕が開き、出演者が舞台の上に並び、観客に向かって礼をする。純子の顔は、初主演を無事にやりきったためか上気していた。彼は頭を上げた純子と目があった。純子は彼に気がつき、微笑んだ。彼は激しく動揺した。
 劇場の隅にある小さな喫煙所で、彼はタバコを吸い、落ち着きを取り戻そうとしていた。彼は左腕に抱えた花束を見た。純子に会って何を言おうか、どうやって花束を渡そうかと、いくら考えても彼の頭にはうまい答えは出てこなかった。喫煙所で舞台の感想を話し合っていた若者たちが、出演者がロビーに来たぞと言って喫煙所を出て行った。彼は何も思いつかなかったが、とにかく純子に会おう、とだけ決意して、タバコを灰皿に捨てロビーに出た。
 ロビーは大勢の人間で賑わっていた。その中心に純子がいるのが見え、彼は近寄ろうとした。だが、彼の足は動かなかった。彼の目には、たくさんの観客に囲まれ賞賛を浴びている中、青年役の俳優と楽しそうに話しながら応じている純子が映っていた。そこは、彼がこれまで経験したことも、近づいたことすらもないような「世界」だった。彼はその中に入っていき純子に話をして花束を渡すことなど、到底できるわけがない思ってしまった。近づくこともできなかった。しばらくの間、彼は立ち止まり、純子のいる人だかりを遠くから眺めていた。純子が自分に気がついてくれたら、と彼は一心に願った。だが、純子は身近な人たちへの応対で忙しく、彼のほうへ視線を向けることはなかった。人だかりが少なくなる気配は一向になかった。彼の気持ちは次第に重く沈みこんでいった。
 やがて、彼は純子から視線をそらし、一歩、後ずさりした。近くには誰も座っていないソファがあった。彼はソファの上へ、静かに花束を置いた。自由になった左手は、なにか大切なものを手放してしまったような感じを彼に思わせた。彼は左手をポケットにしまい、出口へと足早に歩いていった。

webR25 水曜ムチャ振り実験室

「webR25」に2009年9月から11月にかけて6回に渡り連載されていた「水曜ムチャ振り実験室」。
フォルダの“入れ子”はどこまで可能なのか、インスタントラーメンを自作できるのか、実生活に追われてどうしても忘れがちになる些細な疑問を、体当たりで実験し解決していこうという企画だ。コーンスープの粒の数を数えた『零円』も似たような路線を走っているわけだが、先にやられたと悔しい思いを持ったのが、「第四回 一本の鉛筆を使い切るのにかかる時間は?」。発想としては非常にシンプルでわかりやすいのだけど、いい感じにくだらなく、鉛筆を一生懸命に使い切ろうとする体当たり感が目に浮かぶようである。実験中にただよう哀愁まで含めてすばらしい企画だと思われる。

リレー小説『群青の月』 第八回 担当:青柳

 帰宅後、冷蔵庫に転がしておいた発泡酒を一缶取り出す。
 自分の身に起こったことが信じられなかった。手にしているチケットも、今この瞬間に煙となって消えてしまうのではないか。冷蔵庫にチケットをマグネットで貼り付け、発泡酒をぐいと飲み干して眠りに就いた。
彼は観劇の日まで気もそぞろであった。アルバイト先ではデータ入力を大幅に間違い、同僚の手を煩わせた。昼休憩中に純子の姿を思い返していると、同僚の棚瀬に「お前口元ゆるんでるぞ。何か良いことあったのか?やらしい顔して」とからかわれる。いや別に、と素っ気なく言葉を返したが、からかわれたことで悪い気分にはならなかった。
 毎日、あれは夢だったのではないかと自分を疑う。そんな時には冷蔵庫に貼り付けられたチケットの存在を確かめることにしていた。

 公演日、彼はアルバイト仲間の飲み会を断り、菓子パンを腹におさめてから下北沢へ向かう。小劇場が多い街とは知っていたが、実際に降り立ったことはなかった。人も建物も、密度の高い所だ。密に並んだ飲食店や雑貨屋などを縫うように歩く人々。
 ふと、彼は何も持たずに来てしまったことに気付き、目についた小さな花屋に入る。花屋に入った経験が皆無な彼は、愛想の良い女性店員に相談をした。「初めて主役を演じる女性に贈る花束を作ってほしい、あまり派手でないものが良い」と。彼女さんですか?とにこやかに尋ねられ、まさか!と全力で否定する。女性店員はけらけらと笑って、栗色のボブヘアーを揺らす。じゃあこんなお花でお作りしましょうかと言って数種類の花を取り分け、小振りな花束を作った。ふわりとした白い花をベースに、小さな淡い黄色と橙色の花が散りばめられている。完全に私の趣味で作ってしまいました、すみません。女性店員は申し訳なさそうに、けれども人懐っこい笑顔を彼に向けて、いかがでしょうかと言った。彼は白い花から純子のワンピースを連想して、自分の気持ちを見透かされているように思い頬が熱くなったが、初めて贈る花束としては満足した。お礼を言い、代金を支払う。

 小さな紙袋を提げ、チケットの裏に印刷された簡素な地図を見ながら劇場にたどり着いた。劇場は商店街を抜けた所にあり、迷うことはなかった。入り口の掲示板に公演中のポスターが数枚貼られており、その中に「群青の月」もあった。
 受付でチケットを出し、役者に差し入れをしたい場合はどうしたら良いのか尋ねる。受付の男性は、ここで預かることもできるが、役者は終演後ロビーに出てくるのでその時に渡しても構わないと説明してくれた。彼は終演後に純子と話ができることを期待して、受付に預けることはやめた。
 開場したばかりの劇場は、着席している客もまばらだ。劇場内のトイレで用を足してから、自分の座席を探す。真ん中の列のど真ん中、一番観やすそうな座席だった。辺りを見回すと、自分と同年代くらいの男女がよく視界に入った。ぼんやりと開演を待っていると、徐々に座席は埋まり、ほぼ満席になった頃に開演のブザーが鳴った。
 ほどなくして、静まり返った劇場が小川のせせらぎで満たされていった。

映画紹介

モールス
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黒石法師

Author:黒石法師
零円出版編集長
1985年生まれ。

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古典常識一問一答〔人物編〕
入試でよく問われる文学史上の人物を中心に70名を取り上げ、5択のクイズ問題にしました。
零円出版の本
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『砂時計』(小説集)
発行:2011年6月10日
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