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リレー小説『群青の月』 第七回 担当:黒石

 彼女と別れた帰り道の風景はほとんど彼の目に入らなかった。たださっきまでのことがまるで夢の中の出来事のようにぐるぐると頭の中を駆けめぐっていた。「ありがとう、もちろん見に行くよ」そう言って彼はチケットを受け取った。恐る恐る連絡先を聞くと、快く教えてくれた。彼女の名前は純子というらしかった。
 彼女は自転車で三十分以上かかる隣町から自転車で来ていた。こういうことは初めてではなく、深夜に時間を見つけると場所を変えて何度か練習を繰り返していたのだという。深夜に白いワンピースを着て裸足で泣いているのは誰の目からみても異常に見えるのだろう。多くの人は関わりを持つまいと足早に過ぎ去り、中には下心から声をかけてくる怪しい人たちも少なからずいたらしい。一度などいつの間にか警察に通報され、説明するのに大変めんどうなことになったと、こちらが聞いていてひやひやする話を彼女は飄々と話した。
 それだけ彼女が今度の舞台に賭けているということなのか、わからない。これほど美しい、透き通るような外見と型破りな性格が彼の中でうまく結びつかなかった。どんな人なんだろうと興味を持つ一方で、自分とはまったくかけ離れた人との出会いに、かすかな戦慄を覚えずにはいられない。なんて声をかけようか思いあぐんでいると、彼女はそれを悟ったように「とにかく来週いらしてくださいね」と言った。
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リレー小説『群青の月』 第六回 担当:長谷部

「芝居?」
 あまりにも意外だったため、彼の声は大きく、とげがあるように聞こえてしまったのかもしれない。彼女は身体を強張らせて、表情を曇らせながら「すみません」とまず謝り、話し始めた。
 彼女は小さな劇団に所属していた。活動を始めてから3年経ち、ようやく今度の舞台でヒロインに抜擢された。舞台初日は来週末だが、自分の演技が主役としてつとまるものなのかどうかわからず、彼女は不安が募るばかりだった。そこで彼女は、自分の演技力があるかどうかを確かめるために、深夜、人があまり通らないこの駐車場に座り込み、誰かに声をかけてもらうのを待っていたのだ。
「舞台は、小川の傍に座っている私を、主人公の青年が気になって思わず声をかけるシーンから始まるんです。それで、私が気になって声をかけられるほどの演技ができるかどうか、ためしてみたくて……」
「じゃあ、僕が声をかけて返事をしなかったのも、……涙を流していたのも?」
「……演技です。あの、見ず知らずのあなたに、だますような形でご心配をかけさせてしまって、本当にごめんなさい」
 彼女は頭を下げた。事情が飲み込め、ようやく落ち着いた彼は、目の前にいる彼女が白いサンダルを履き、手には小さなかばんを持っていることに気がついた。彼の心にはだまされた怒りや羞恥心というものは起こらず、ただ、目の前の美しい彼女が無事であることに安堵するだけだった。
 彼は自分が気にしていないこと、むしろ、彼女が何かトラブルに巻き込まれていないということがわかってホッとしたことを、素直に伝えた。彼女はその美しい顔に笑みを見せて、彼に感謝の言葉を述べた。彼は彼女の笑顔にふたたび心が揺さぶられるのを感じた。
 彼女はかばんからチケットを出して「もしよかったら、舞台、見に来てくれませんか? 来週の金曜が初演ですけど」と言って彼に渡した。チケットには『群青の月』という題目が書かれていた。

スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)スティル・ライフ (中公文庫)
(1991/12)
池澤 夏樹

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出てくる言葉やら、ストーリーやらがいちいちおしゃれ。
男二人でバーでウイスキーを飲みながら星の話をするなんて、もはやしらじらしいほどおしゃれ(誉め言葉です)。
もともと理系の人だから理科的な感性も冴えわたる。
物語のはしばしにちりばめられた理科の話にぐっときます。

僕の友達である佐々井が、これまた魅力的でたまに読みたくなる逸品。

リレー小説『群青の月』 第五回 担当:青柳

 ため息をつくとより一層気分が落ち込んだ。
 彼は築二十数年のくたびれかけたアパートの階段に足をかけようとしたが、踵を返し、走り出した。
このまま狭い部屋で、眠りについて良いものか。また同じことの繰り返しで、俺は生きていくのか。どうせ後悔するならば、あそこに戻ってもう一度あの女性に声を――いいや、手を差し伸べて何があったのか訳を聞こう――たとえ偽善的でも、多少の下心があっても。

怖いくらい綺麗な人だった。
胸がどきどきする。これ以上あの女性に近づいてはならないという胸騒ぎによるものなのか、あの美しさに心を奪われて気持ちが高揚しているのか、感情の区別がつかなかった。
コインパーキングに戻った時には彼の息は切れ切れだった。両膝に手をつき、呼吸を整える。女性の姿はなく、ひどくがっかりした。しゃがみ込み、ひとりごちる。ああ、何だ。あんなに綺麗だったのだから幻だったのかもしれないな、なんてな。
「あの、大丈夫ですか?」
凜と透き通るような声が耳に届き、彼は身をよじった。
「あれ…あなた、さっき私に声を掛けてくれた方ですよね?」
彼の目の前には、あの女性が驚いた顔をして立っていた。
「え、いや、まあ…その…さっきここに…あなたがしゃがみこんでいて…気になってですね、えっと」
 彼はしどろもどろになりながら、言葉を繋ごうとする。しかし女性から発せられた次の一言に、一瞬思考が停止する。

「私のお芝居に騙されましたか?」

リレー小説『群青の月』 第四回 担当:黒石

 街灯の淡い光がアスファルトにあたり、男の影をぼんやりと映し出していた。
「また何もできなかった」
そう思うと、彼ははげしい後悔の念に襲われはじめた。自分から声をかけておいて、最後までやりきることができなかった。いつもそうだ。俺はいつも逃げてばかりいる。定職に就かずにアルバイトでやり過ごすその日暮らしの毎日に、彼女はしびれをきらして家を出ていった。「早く定職についてほしい」と言われると自尊心が傷つき、気がつけば「やりたい仕事が見つからない」などと平凡な言い訳を並べていた。そしてもはや自分でも半ば信じていない夢を語っては、彼女をあきれさせていた。
 それでも彼女はずいぶんと彼のことを思い、言いたいことを抑えていたのだと、別れてしまってから気づく。彼が気づかないでいる間に、その我慢が限界に達したとき、「私には何もしてくれなかった」と一言つぶやき、彼女は去っていった。
「今度も同じだ。困っている人がいるのに、何もできずに逃げてきてしまった。」
本気になれば、できることはあったはずだ。周囲には誰もいなかった。落ち着かせて話を聞くぐらいのことはできただろう。必要あらば警察を呼ぶことだって。
「だけど、何もできなかった」
彼は落ち込むととぼとぼと家路についた。

リレー小説『群像の月』 第三回 担当:長谷部

 しばらくの間、彼は心を奪われてしまい、その場に立ち尽くした。女性は何も言わなかった。ようやく我に返った彼は、急いで振り返ると、全力で走り出した。
 100メートルほど走ったところで彼は立ち止まった。息をきらせながら、おそるおそる背後を見た。道には誰もいなかった。彼は電信柱に寄りかかり、深呼吸をして息を整えた。それから、タバコを取り出して火をつけた。
 駐車場の弱い明かりに照らされた女性の顔は、美しかった。この世の存在とは思えないほど、美しすぎた。彼は現実であのような美しい女性を見たことはいままでになかった。そう思った瞬間に、彼の心は恐怖で埋め尽くされた。あれほどまでに美しい女性が、裸足で、深夜の駐車場にしゃがみこみ泣いているなんていうことは、現実にはありえない。もしありうるとすれば、それは何かしらの事件が起こったんだ。いずれにせよ、この女性に関わってはいけない。そして彼は逃げだした。
 彼はタバコの煙を吹かしながら、女性のことは見なかったことにしよう、と決めた。だが、そんな彼の頭の中に、
「結局あなたは言い訳ばかりして、私に何もしてくれなかった」
という、半年前に別れた恋人の言葉が思い浮かんだ。彼はひとつ大きなため息をついた。

リレー小説『群青の月』 第二回 担当:青柳

 怖い。
 最初に感じたのは至極原初的な感情であった。いつか見たホラー映画に出てきたような女の幽霊の風貌を思わせるからだろうか。ワンピースの裾からのぞく白い脚は、ほっそりとしていて、どこか不健康さも漂わせていた。
 ふと、女性の全身を眺めていて、違和感を覚えた。女性は裸足だったのである。靴はどこにも転がっていなかった。
 彼は後ずさりし、見なかったふりをしようとする。不用意に声をかけて厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだった。この通りは自分以外にも誰かが通るだろう。
 けれどももし、具合が悪くて座り込んでいるのだとしたら。一刻をも争う事態だとしたら。彼はその場に立ち尽くしたまま、小さな覚悟を決め、しかしながら一掴みの恐怖心のために女性に近寄ることはせずに声をかけることにする。
「あの、大丈夫ですか」
 彼の第一声は、緊張のあまり少し掠れてしまっていた。けれども女性は何も答えない。
「具合でも悪いんですか?」
もう一言、声をかける。すると頭がゆっくりと動き、こちらを見た。
女性は、泣いていた。

リレー小説『群青の月』 第一回 担当:黒石

 駅の改札を出ると雨は上がっていた。彼は差そうと思っていたビニール傘をたたみ、いつも利用する喫煙スペースに行くと煙草に火をつけた。ゆっくりと煙を吸い込み、吐き出す。煙が夜風に揺られて闇に溶けていく。ひんやりと湿気を含んだ空気が肌に心地いい。
 週末だ。駅前には深夜になっても多くの人影があった。よっぱらって居酒屋の入口にたむろして騒ぐ学生が遠目からも見える。喫煙スペースには彼と同い年ぐらいの男が煙草を吸いながら電話をしていた。なにか小さな声で言い合っているようだったが、内容まではわからない。彼は煙草を吸い終わると帰途についた。
帰り道にさびれたコインパーキングがある。毎日のように横切っているが車がとまっているのを見た事がない。しかし今日、そこを通ったとき彼はぎょっとした。駐車スペースの隅の壁に頭をつけて女が座りこんでいる。白いワンピースに長い黒髪の女性だ。壁を向いているためこちらから顔は見えない。

零円リレー小説『群青の月』 本ブログにて連載決定!

ひさしぶりの更新になります。
本ブログにてリレー小説を連載いたします。
執筆するのは、零円出版のかかえる人気作家、青柳女史と長谷部氏、そして私、黒石の3名です。

一週間に一度、一人400字程度の計算でリレーしていきます。
最終的には6000字ほどの短編になる予定です。

タイトルは『群青の月』
最後の一文は「くゆらせた紫煙が群青の月にまとわりついていた。」に決定しました。

また、あまり散らかってもおもしろくないので、ルールを設けることにしました。
あまり多くありませんが以下の通りです。

・魔法、夢落ちの禁止
・前の書き手が作った登場人物を簡単に殺さない
・ジャンルは現代物

この設定でどのような物語が生まれるのか、乞うご期待。




映画紹介

モールス
プロフィール

黒石法師

Author:黒石法師
零円出版編集長
1985年生まれ。

フォローミー
零円出版ツイッター
零円出版からの情報をリアルタイムで伝えます。
『零円』バックナンバー
零円2号 中綴じ仕様.pdf001名前消し
『零円』2号
発行:2010年3月25日

零円3号完成 改訂版1.pdf001
『零円』3号
発行:2010年10月20日

零円4号 hyousi.pdf001
『零円』4号
発行:2011年3月25日

零円5号 表紙 0001
『零円』5号
発行:2011年11月3日

零円6号 表紙0001
『零円』6号
発行:2012年5月6日

零円7号 表紙0001
『零円』7号
発行:2012年11月18日

古典常識一問一答〔人物編〕
入試でよく問われる文学史上の人物を中心に70名を取り上げ、5択のクイズ問題にしました。
零円出版の本
syousetu_20121119215608.jpg
『砂時計』(小説集)
発行:2011年6月10日
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